エネルギー問題をこじらせない

「エネルギー問題の解決は喫緊の課題である。」という意見に、私は同意する。随分前から気にしているが、改めて考えさせられたきっかけは、先週「あいち自動車ゼロエミッション化加速プラン」(以下「加速プラン」)という資料をインターネットで偶然みつけたことだった。昨年(2020年)、政府が「2050年までにCO2排出量ゼロ」を目標として正式に発表した。これをうけて、愛知県が2021年3月に発表したプランだ。

 よくあることだが、物事を考える過程で話が複雑になるほど、もっともらしい説得力を感じる。その一方で、複雑な身振りに振り回されて、全体像やその根本原因を忘れてしまうことがある。エネルギー問題は、気をつけたほうが良いものの1つだと思う。

 私の頭の中では、車に関してCO2排出量ゼロというのは、走っているすべての車が電気で走るという状態だということにしている。走っている車がすべて電動自動車であれば、走行中にCO2を排出するしくみがないのだから、CO2を発生させることができない。

蛇足かもしれないが、1台も車を使わなくなればCO2排出量はゼロだ。しかし、「加速プラン」によると、今後世界での自動車販売台数は2050年までに1.5倍になる。つまり、車を使わないようにしてCO2ゼロにするというシナリオは、愛知県にはない。

そこでまず考えたくなるのは、現在日本国内で走っている約6,000万台の自動車をすべて電気で動かそうとしたらどれくらいの電気が必要なのかということである。「加速プラン」は100ページ余りなので、そこから探し出すのは難しいと思って、愛知県庁に電話しみた。担当部署の説明では、考え方は同じだが、数値を算出していないとのことだった。

全部の自動車を電動化するのは非現実的かもしれないが、計画段階での理想像として数値化したほうが私には分かりやすい。しかし、愛知県はそれを提示しないという方針で「加速プラン」を作っていることが分かった。

 その翌日、図書館で偶然手にした高野雅夫氏の著書「人は100Wで生きられる」(2011年)という本に気になる数字のヒントがあった。

 本の中では三菱自動車のiミーブを電気自動車のサンプルとして、国内で使われる6,000万台の1%にあたる60万台で試算している。60万台で1ギガワット、原子力発電所1基分の電力が必要としている。明確に書かれてはいないが、おそらく年間の必要電力だと思う。仮にそのように理解した場合、原発100基分の電力が「新たに」必要になる。現在運転を停止している現存する原発をすべて動かしても足りない。「加速プラン」を参考にすると愛知県だけでも6基の原発が必要になる。

 本は気になるところをつまみ読みしただけだが、水素エンジンについても興味深い内容があった。「①水素を作って(車に搭載して)」「②電気を発生させて車を動かす」という2段階でエネルギーの流れが説明されている。①で100wのエネルギーを投入して②で使えるエネルギーは20wとなっている。つまり20wを作るのに100wを使うという仕組みだ。

 ところで、石油のエネルギー効率について参考までに考えてみる。私の記憶はかなり大まかだが、石油生産効率のピークは1940年頃で、石油100リットルを生成するのに石油1リット必要だった。現在は1リットルの石油で30リットル程度。効率が100から30に鈍化したのは大きな油田の埋蔵量が残り少なくなり、中小規模の油田に移行したためだ。一頃注目されたシェールオイルは更に効率が悪い。

 水素エネルギーは、逆ざやになっているのだから効率度返しということになる。

 しかし、今日(8/30)の中日新聞の記事では、水素は次世代エネルギーとして期待されている。海外で水素を作れば経済的に採算が取れるかもしれないということだ。気をつけなければいけないのは、事の本質はエネルギーの問題だということだ。水素の生成方法の違いによってどれほどの効率化が図られるのかは分からない。記事によると水素から電力を取り出すときのエネルギーロスは35~40%となっている。①~②の過程全体でのロスであれば、この10年で飛躍的な改善といえる。とはいえ逆ざや状態であることには違いがない。

2050年までにCO2排出量はゼロにする議論について、結論はそれほど難しいことではない。現在ある需要を満たすためには原発を動かすしかないということだ。需要の規模が大き過ぎて、火力発電以外では原発しか方法がない。もしも、原発を動かしたくなければ、需要を大幅に削減することが必須だろう。

ところで、高野氏は名古屋大学の准教授(2011年時点)で、愛知県内が研究フィールドの一つになっている。旧足助町では、100年前につくられた水力発電設備(設立時は町有)で、現在も1世帯あたり2.7kwの電力を供給できるとしている。本の趣旨はタイトル通りだ。1時間100Wの電力、1日2.4kwあれば暮らせるということだ。一月30日とすれば月に72kwということになる。私は月に80kwh前後の消費量なので、とてもハードルが高いという話ではないと思う。

話をまとめると、やりようによっては100年前の小規模な水力発電で、基本的な生活は可能だ。それに加えて、今のままの車社会を維持してCO2排出量ゼロにしようとすれば、2050年までに、愛知県内だけでも、原発6基分(6ギガワット相当)の電力設備を新設しなければならない。

全体よくみたら、意外に話は簡単だと気付く。何が現実的なのか。改めて考えるよい機会だと思った。

【参考】

「あいち自動車ゼロエミッション化加速プラン」 >>>こちら

https://www.pref.aichi.jp/soshiki/ondanka/evphvfcv.html

高野雅夫 「人は100Wで生きられる」(2011年大和書房)

NPO法人 風舎

石窯でピザ焼き体験。川遊び。ワークショップ(ミツバチの巣箱づくりなど)、自然に触れながら交流を深めるNPOです。くらがり渓谷キャンプ場のすぐ近く、手作り家具と石窯づくりの工房内に事務局があります。